ねえ、新一。
あなたは知っているの?
私が、どんなにあなたを思っているのかを。
・・・知っているわよね。
私、ちゃんと言ったもの。
あなたのことが、大好きだって。
ずっと、あなたを待っていたんだって。
あなたに会えなかった時間が、どんなに苦しいものだったか・・・あなた、ちゃんとわかってる?
待つだけの時間が、どんなに辛いか。
私は・・・知っている。
もう、十分に味わったんだもの。
もう二度と、あんな思いはしたくないのに。
なのに。
あなたは・・・また、私を待たせるのね。
私の気持ちを知っているくせに。
待たなくてもいい、とあなたは言うけれど。
・・・わたしがそんなことできないってこと、よくわかってるでしょう・・・?
そんなに簡単に待つことをやめることができるなら、あなたがいなかった、あの長い時間・・・ずっと待っていたりなんて、しなかった。
何度、涙を流したか。
何度、不安に押しつぶされそうになったか。
・・・そのたびに、待つのをやめてしまえば、こんなに辛くないのに・・・と、そう、思ったけれど。
でも、そんなこと、どうしてもできなかった。
自惚れかもしれないけれど、今ではこう思っている。
わたしが待つのを諦めたりしなかったから・・・あなたは、戻ってきてくれたんだ、って。
わたしが諦めなかったから。
だから、あなたも諦めずに、戦って、そして戻ってきてくれた。
そう、信じている。
だから、お願い。
ちゃんと待っているから・・・だから。
待たなくていい、だなんて、言わないで。
新一を、待っていたいの。
待っていさせて。
そして・・・今度も、必ず、帰ってきて。
わたしのところに。

待たなくていい。
・・・蘭に、そう言った。
以前とは、逆の言葉。
あのときは、待っていて欲しい・・・と、そう言ったというのに。
今回は、どうしてもそれが言えなかった。
あのとき。
お前が待っていてくれることが、オレに力を与えてくれた。
オレを待つのに疲れて、時折涙を見せていたお前を見るのは辛かったけれど、だけど、一方で、そのことに歓喜する浅ましいオレもいた。
こんな思いまでして、蘭はオレを待ってくれている・・・そのことが、どんなに、オレに喜びを与えていたことか。
お前のためを思うなら、
待っていて欲しい・・・などと、言うべきではなかったというのに。
待たなくていい、と・・・いつ帰れるのかわからない男を待つことなど、ないのだ、と。
そう、言ってやるべきだったのに。
あのときは、それが言えなかった。
どんなに蘭が辛くても。
どんなにお前を泣かせても。
辛い思いをさせたくなかった・・・泣かせたくなかった・・・それでも。
オレは、お前に待っていて欲しかったんだ。
・・・そして、お前は待っていてくれた。
こんなバカな男の帰りを、ずっと。
だから、帰れた。お前のところに。
蘭が待っていてくれなかったなら、オレは諦めてしまっていたかもしれない。
強大な組織に一人で立ち向かうことの無謀さに打ちのめされて、すべてを投げ出してしまっていたかもしれない。
蘭が待っていてくれたから、オレは戦えた。
強くなれた。
だが。
これは、オレの我侭だ。
蘭が辛い思いをしているのを、知っていながら。
・・・オレを待つことをやめてしまえば、お前が楽になれることは、わかっていたというのに。
だから、今度は。
待たなくて、いい。
もうオレを、待っていなくていいから。
※※
「・・・で、新一君・・・いつ帰ってくるって?」
「・・・1ヶ月後」
蘭の言葉に、園子は盛大にため息をついた。
「・・・あんたら、バカ?」
「園子、ひどいっ!」
蘭は泣きはらした目のままで園子の言葉を非難するが・・・園子にしてみれば、前言撤回などする気も起こらない。
事件の依頼でたかだか1ヶ月、日本を離れるという新一を見送りにきた空港で。
「・・・で、待ってるの? 新一君が帰ってくるまで」
「うん・・・」
「待ってなくていいって言ってたんでしょ?いいじゃない、先に行ってれば」
「だって・・・せっかくだから、一緒に行きたいじゃない。卒業旅行・・・」
「あんた一人が待ってるだけなら、好きにすればって感じなんだけどさあ。そうなると必然的に、一緒に行くメンバー全員、待ってるってことになるんだけど・・・」
新一が欠けただけならいざ知らず、蘭まで参加が遅れるとなると・・・日程変更せざるを得ない。
クラスの人気者二人を除いて卒業旅行にでかけるなど、園子はともかく、ほかのメンバーが納得するわけがないのだから。
・・・ま、いいけどね。
あんた達の涙のお別れシーン、ばっちりカメラに納めさせてもらったから。
焼き増しした写真、旅行中にみんなに配っちゃうんだから・・・覚悟しておきなさいよね。
おわりっ☆