〜 side 蘭 〜
「・・・くやしいっ!!!」
けたたましい足音を立てて探偵事務所の3階・・・つまり、自宅の扉を勢いよく開け放ち、ばたばたと自分の部屋に駆け込んで・・・蘭は冒頭のように叫ぶなり、ベッドの上のクッションを引っ掴んで、壁に向かって勢いよく投げつけた。
白い部屋壁にドスンと鈍い音を立て、ぽすんと落下したそのクッション・・・実は今年の蘭の誕生日に、幼馴染の新一から貰ったものである。
ハート型をかたどった少し大き目のピンクのクッション。触り心地が良くてお気に入りの一品なのであるが、なにしろ贈り主が新一だということで、蘭の中の「新一に対する感情」が今日のように雷模様になったときには・・・当人の身代わりとばかり、このような扱いを受けることになってしまう。
壁に向かって投げつけただけでは飽き足らず、蘭はさらに、ベッドの上に落ちたそのクッションに対して、ぼすん!と真上から力いっぱい拳を突きたてた。
「・・・もう絶対、新一と一緒にスケートなんか、行かないんだからっ!」
あわれ新一からの贈り物であったそのクッションは、蘭の繰り出した力任せの正拳付きによって大きく形をゆがめてしまい、きゅう、と小さく抗議の音を立てる。
まるで新一その人の声であるかのように耳に届いた情けないその音に、ようやく少し溜飲を下げ・・・蘭は「ふう」と大きくため息をつくと、ベッドの上にごろんと身体を投げ出した。
珍しく新一が遊びに行こうと誘ってくれた、ある冬の日曜日。
中学生になってからというもの、新一はサッカー部の練習が忙しくて、子供の頃のように二人で四六時中一緒に遊び回るということは、すっかりなくなってしまっていた。
蘭にしたところで空手部の練習もあり、また毛利家の「主婦」として家事もこなさねばならず、と、いろいろと多忙な身で・・・そのことを少し寂しく思っていた矢先のことだったので、大喜びでその新一の誘いに乗ってしまったのだ。
久しぶりにトロピカルランドに行こう、という新一の言葉を、鵜呑みにしたのがまずかった。
小学生の頃にはどちらかの両親や阿笠博士に連れられて、何度も遊びに行ったことはあったのだが、二人だけで行ったことはまだなくて。
だから、ものすごい冒険に出掛けるようなわくわくした気分で、そしてちょっとだけ大人になったようなどきどきした気持ちで、新一について行ったというのに。
悪戯っぽい笑顔を口元に浮かべる新一に連れて行かれたのは、アトラクションが立ち並ぶ遊園地のエリアではなくて・・・その隣に新しく作られたという、大きな屋外スケートリンク。
てっきり遊園地に行くものだと思って浮き浮きしていた蘭は、目の前に広がる銀盤を前に呆然と立ち尽くしてしまった。
「・・・スケート、するの・・・?」
恐る恐る尋ねてみれば、新一はやけに嬉しそうににやりと笑って、
「心配すんなって!・・・オレが教えてやっからよ!」
あまりの憎たらしさに、蘭は思わず拳を握り締めていた。
・・・知ってるくせに。
蘭が、スケートがまったくできないってことを。
わかってて、こんなところに連れてくるなんて、嫌がらせとしか思えないっ!
「・・・わたし、帰るっ!」
「おいおいっ!・・・待てよ、蘭っ!」
くるりと踵を返して走り去ろうとする蘭の腕を、新一ははしっと掴んだ。
その新一に向き直り、蘭は大声で抗議する。
「・・・意地悪っ!・・・スケートできない私のこと、からかうつもりで連れてきたんでしょっ!?」
「あのなあ・・・オレもそんなに暇じゃねえって」
「じゃあどうしてよっ!?」
「滑れないままじゃ、蘭が困るんじゃねーのか?・・・来月のクラス行事、スケートなんだろ?」
「・・・なんで違うクラスの新一が、そんなこと知ってるのよ」
「サッカー部の奴が言ってたんだよ。・・・で、どうすんだ?できないままで行くのか?」
「・・・」
いろいろと痛いところを突かれてしまい・・・蘭は上目遣いに、にやにやと笑ってこっちの顔を覗き込んでくる憎たらしい幼馴染の顔を、力いっぱい睨みつけた。
運動神経は悪くないし、大抵のスポーツは問題なくやってのける蘭なのだが、それでも苦手な分野というのはあるもので。その代表的なものが、この「スケート」だったりするのである。
・・・何をやってもけっこうコツを掴むのが早くて、それほど苦労せずに人並みにこなせるようになるのに。なぜかスケートに関してだけは、なかなか滑れるようになれない。
小学生の頃に新一の両親に連れられて一度だけ行ったスケートリンクで、新一と一緒に有希子に教えてもらったというのに・・・あっさりとコツを掴んですぐに一人で滑れるようになってしまった新一とは対照的に、丸一日練習しても立っているのがやっと、という情けない結果に終わってしまったのだ。
だいたい、おかしいでしょう?
なんであんな細いブレードの上に、バランスを崩さずに真っ直ぐに立っていられるわけ?
しかもその状態でただ立っているだけならいざ知らず、歩いたり、更には滑ったり・・・だなんて、とても信じられないっ!
・・・蘭のその意見に対して新一は、「・・・そりゃ、オメーが鈍いからだろー?」と、けたけたと笑いながら、憎たらしいことを言ってくれたっけ。
そのとき、あまりにも悔しくて、だから、もう二度とスケートなんかするものか、と思っていたというのに。
3年後の今日・・・まるでだまし討ちのように連れてこられた、スケートリンク。
そりゃあ、ね。
このままでいいだなんて、思ってなかったわよ。
クラス行事でスケートに行くことが多数決で決まってしまい、どうしたものかと頭を悩ませていたのも、事実。
せっかく行くんだから、滑れたほうが楽しいに決まっている。みんなが楽しそうに滑っている中で、一人だけ手すりから離れられないのも、ころんころんと転びまくってしまうというのも、カッコ悪いし恥ずかしい。
同じように滑れないと言っていたクラスメイトの女の子の中には、「本山くんが教えてくれるって言ってくれたのっ!わたし、滑れなくてよかったぁ〜」などと、これ幸いとばかりに喜んでいる子もいたりするのだが・・・蘭にはさらさらそんなつもりはないわけで、滑れないことが憂鬱でしょうがなかったのだ。
練習に、行ったほうがいいのかな、とは思っていた。そして蘭の身近で、スケートを教えてくれそうな人といえば・・・一人しか、思いつかなかった。
だが、その人の顔を思い出すと同時に、「オメーが鈍いからだろー?」とからかう憎たらしいくらいに楽しげな口調まで一緒に思い出してしまい、絶対に新一になんか教えてもらうもんか!・・・と、一人静かに決意を固めていたのだ。
・・・なのに。
ここ数日二人で話をしていたときでも、スケートの「ス」の字も口にはしなかったというのに、当の新一はちゃっかりと蘭のクラスの行事のことまで把握していて、頼んでもいないのに、「教えてやる!」とばかりに、こんなところに連れてきたりして。
なんだか悔しくて、新一を睨む視線に力を込める。
何が悔しいって、新一の、「蘭のことなどすべてお見通し」と言わんばかりの態度が、である。
蘭のクラスがスケートに行くことも、蘭がそのことで憂鬱になっていたことも、練習しなきゃいけないかなあと密かに思っていたことも、一瞬だけとはいえ新一に頼んでみようか、と思っていたことも、けれど悔しくてそれができなかったことも・・・何もかもわかっていたかのような、この周到さ。
普通に「スケートやろうぜ」と蘭を誘ったりすれば、「誰があんたなんかと!」と、蘭が即座に拒否するであろうことを見透かしたかのように、こんな形で連れてきたりするなんて。
それが悔しくて。
でも同時に、ちょっと嬉しく思ったりもしたのだ。
新一がスケートに連れてきてくれたのって、わたしが滑れなくて恥ずかしい思いをするのを、心配してくれたからだよね・・・?
そう思ってしまったのが、運のつき。
蘭にとっては屈辱の1日が始まることとなる。
「・・・くやしい・・・」
スケートリンクでのことを思い出し、蘭はベッドの上で両腕で顔を覆った。
『・・・ったく、鈍い奴だなー』
初めは手すりにつかまって、歩く練習から。
だが、なかなか手すりから離れようとしない蘭に業を煮やしたのか、ちょっとした隙を突かれて、新一にリンクの中央に連れ出されてしまった。
『・・・きゃあああっ!な、何するのよっ、馬鹿っ!』
『いつまでもあんなトコに掴まってたら、滑れるようにならねーだろー?』
『やだ、ちょっと!・・・手、離さないでよっ!』
『へえ、そんなにオレと手ぇつないでたいんだ』
『ば、馬鹿っ!・・・そんなんじゃないわよっ!・・・って、きゃあっ、だから、離さないでって言ってるでしょうっ!?』
『・・・オメーな、言ってること矛盾してるってわかってるか・・・?』
・・・結局。
ほとんど丸一日をリンクの上で過ごしたというのに・・・こんな会話が、そのうちの大部分を占めていたのだ。
新一のために敢えて言わせてもらうなら、新一の教え方が悪い、ということはないと思う。
どちらかというと丁寧に順序だてて、何事もわかりやすく教えてくれるのが、いつもの新一。だからこそ、悔しいと思いつつも、教えてもらうなら新一しかいない、と蘭も思ったのだから。
これまでにも一緒に、色々なことをやってきた。スポーツも遊びも、勉強も。
何をやらせてもすぐに自分の身につけてしまう新一は、二人で一緒に始めたことであっても大抵は蘭よりも先にできるようになる。水泳でもスキーでもテニスでも。結果、蘭はスタートラインは同じであったはずの新一に、自慢たらしく教えてもらう羽目になってしまうのだ。
そしてそのことを悔しいと思いつつも、他の誰に教えてもらうよりも新一に教えてもらうのが一番わかりやすくて・・・新一より少し遅れて、すぐに蘭もできるようになる、というのがいつものパターン。
なのに。
どうも今回は、それがうまくいかない。
新一はちゃんと教えてくれているし、蘭も頑張っていたのに・・・どうしても、滑れるようにならないのだ。
そして、いつもなら何を教えてもすぐに出来るようになる蘭が、珍しくなかなかマスターすることができずにいるのが嬉しいのか楽しいのか、新一はここぞとばかりに蘭を苛めてくれる。
『オメーがこんなに鈍いとは思わなかったぜー?』
『・・・ほら、ここまで一人で来てみろよ?・・・って、おい、半分も進まないうちに転んでんじゃねーよ』
『へったくそだなあ!ほら、こうやるんだよ!』
得意げに、蘭の前で華麗に滑ってみせる新一。その新一についていこうとして技術が追いつかず、バランスを崩して転びそうになるたびに、新一に身体を支えられてしまう。
そのときの新一の、得意そうな顔ったら!!
思い出すだに悔しくて、蘭は横になっていることができず、がばっと半身を起き上がらせた。
(・・・何よ。何よっ!・・・ちょっと私より上手にできるからって・・・新一の、バカっ!)
こんなことなら、新一を振り切ってとっとと帰ってくればよかった。
新一に、あんな風にバカにされるくらいなら・・・クラス行事で滑れないままのほうが、よっぽどマシだ。
クラスメイトにバカにされたって、滑れないのをからかわれたって、きっとこんなには悔しくない。・・・相手が新一だから、こんなにも悔しいのだ。
だって、始めたのは、同じ時期だったのに。
いつだって、何だって、そう。
新一のほうが、必ず先にできるようになってしまう。
それが悔しくて、新一にできることが自分に出来ないということが、どうしても嫌で。
・・・新一に、置いてけぼりにされるのが、嫌で。
だからこそ、必死になって新一に追いつこうとしているのに。
「・・・やっぱり、悔しい・・・」
あらためて呟くと、蘭は新一にもらった例のクッションをそっと取り上げた。
もう一度壁にぶつけてやろうかと、肩越しに大きく振り上げて・・・だが、何だかそうする気になれなくなって、一旦は頭上に振り上げたそれをゆっくりと膝の上に戻す。
「・・・新一に、置いていかれたくないもん・・・」
幼馴染で、ずっと一緒だったのに。
中学2年生ともなると、だんだん男女の体格差が生まれてくる。
成長期の遅い新一の身長は、まだ蘭とほとんど同じくらいだというのに、全速力で走ってみても、もう新一には追いつけなくなってしまっていた。
以前は・・・ずっと、並んで走っていられたのに。
それが、悔しい。
置いていかれたくない。
バカにされたくない。
同じ目線で、同じものを見ていたいのに。
我知らず、蘭はクッションを胸にぎゅっと抱きしめていた。
『・・・来週、もう一回いくぞ!』
『・・・本気で・・・?』
『んだよ、滑れるようになりたいんじゃねーの?』
『・・・・・・』
別れ際、そんな会話を交わしていた。
あのときはもう、ぐったり疲れてしまっていたので、返事をする気もしなかったのだが。
滑れるように、なりたい。
クラス行事のために、じゃなくて、新一にバカにされないために。・・・新一に手を引いてもらうんじゃなくて、新一と並んで滑れるようになりたいから。
来週・・・。
見てなさいよ、新一っ!!
〜 side 新一 〜
「・・・C組のクラス行事、何すんだ?」
ある日のサッカー部の練習後、新一はチームメイトの一人に何気なさを装ってそう尋ねた。
「ああ、スケートだってさ。工藤のクラスは?」
「うちは登山だとか言ってたかな・・・」
答えながらも新一の意識は、C組に所属する別の人物の方へと向いていた。
(スケートって・・・確かあいつ、滑れねーんじゃなかったっけ・・?)
帰り支度を整えながら、チームメイトたちとくだらない話をしつつも、新一の頭の中は一つのことだけに占められていた。
2年生になって、新一はA組で蘭はC組と、クラスが分かれてしまった。
幼稚園も小学校も同じだったのだから、これまでにも同じクラスになったりならなかったり・・・ということを繰り返してきたわけで、違うクラスになることなど、もちろん珍しいことではない。
ただ、小学生の頃と今とでは、少々事情が異なってきている。
小学生の頃にはなかった、ある現象・・・最近とみに耳に入るようになってしまった、どうにも気に食わない現象が、今では存在してしまっているのだ。
それは、中学に上がってから急に増殖しだした、「毛利って、いいよな」という男子生徒たちの声だった。
当然、蘭と同じC組の連中からもその声は聞こえてくるわけで、それを耳にするたびに、新一はやきもきした気分にさせられる。
「あいつはオレのだから、オメーらは手ぇ出すんじゃねえっ!!」と、叫んでしまえたら、どんなに楽か。・・・だがそれができるほど、新一もまだ大人になってはいなかった。先に「照れ」や「意地」が出てしまい、ついつい「あいつはただの幼馴染」と声を大にして主張してしまうのだ。
もっともそれはお互い様で、蘭のほうも新一との仲をからかわれるたびに、「そんなんじゃないわよ!新一は、ただの幼馴染なんだから!」と思いっきり否定してくれている。
・・・あいつの場合、本心からそう思ってんのかもしれねーけど・・・。
そのことにむっとしたものを感じつつも、かといって蘭が他の男と仲良くなったりするのはますますもって気に食わなくて、ついつい新一は、「C組のクラス行事、何すんだ?」などと、こっそりと探りを入れてしまうのだ。
そして、蘭のクラスはスケートに行くのだということが判明する。
毛利って、いいよな・・・などとほざいている男子生徒たちの群れの中に、ほとんど滑れない蘭を放り込む・・・それって、まずくねえ?
どうにも嫌な展開が脳裏に浮かび、新一は人知れず顔を顰めていた。
スポーツ全般、苦手など何もなさそうな蘭なのだが、不思議なことにどうやらスケートだけは鬼門のようである。
小学生の頃に1度だけ一緒に(・・・といっても、新一の両親も一緒だったのだが)行ったとき、新一がすぐに滑れるようになって自分だけがまったく滑れるようになれなかったのがよほど悔しかったのか、それ以来、どんなに新一が誘っても「絶対に行かない!」と強硬に拒んでいるのだ。
ということは、当然今でも滑れるようになってはいないはず。
滑れない蘭がクラスの連中と一緒にリンクに行って・・・バランスを崩して転んだりなんかしてみろ、蘭を狙っている男どもが、そんな美味しいチャンスを逃すわけなどないではないか。
転んだ蘭に、「大丈夫か?」と手を差し伸べるヤツ。
倒れそうになってる蘭を、ここぞとばかりに支えようとするヤツ。
「オレが教えてやるよ」と図々しく近づくヤツ。
・・・「毛利って、いいよな」とのたまっていたヤツらのにやけた顔が、まざまざを脳裏に思い浮かび、新一はふるふると大きく頭を振った。
・・・冗談じゃねー。
んなこと、させてたまるかっ!
・・・新一の想像の産物である「蘭に近づく男ども」の行動は、そのまま新一の「やりたいこと」の反映であるのだが・・・そのあたりは取り敢えず横に置いておいて。
新一はその日、帰宅してすぐに蘭に電話する。
これまで何度誘っても、絶対にスケートに行かないと主張していた蘭を、なんとか誤魔化してスケートリンクに連れ出すために。
クラス行事の日までには何としてでも、蘭には華麗な滑りをマスターしてもらわなければならなかった。
蘭という少女は、まったくもって意地っ張りで負けず嫌いである。
例えば、スキー。
始めたのは同時期だったが、先にマスターしたのは新一だった。・・・それが気に入らないのか悔しいのか、頭が下がるような努力の果てに、今では自他共に認めるプロ級の腕前の新一に、しっかり着いてこれるほどにまで上達してしまった。
例えば、テニス。
同じく同時期に始めて・・やはり新一のほうが先に上手くなったのだが、蘭は嫌になるほど新一を練習に付き合わせ、挙句に新一と互角に打ち合えるまでになってしまった。
蘭に言わせれば、「一緒に始めたのに、新一だけ上手になっちゃうなんて、悔しいもん」とのことなのだが・・・新一にしてみれば、「・・・少しはオレに、優越感を持たせれくれよ・・・」という思いもあるのだ。
やっぱり好きな女の前じゃ、いいところを見せたいというのに。・・・蘭はなかなか、それをさせてはくれない。
何とか蘭よりも先に出来るようになって、それを得意げに教えてやる・・・というところまではいいのだが、その後、努力家の彼女は実に短期間のうちに、新一の「楽しみ」をあっさりと奪ってしまうのである。
だが。
『・・・きゃあああっ!な、何するのよっ、馬鹿っ!』
その週の日曜日。
なんとか蘭を誘い出したスケートリンクで・・・新一は久しぶりに、その「楽しみ」を満喫することとなる。
負けず嫌いな蘭の性格を逆手にとって、あれだけ嫌がっていたスケート靴を履かせることに成功。そして、予想していた通り子供の頃からまったく上達していない蘭に、手取り足取りコーチしてやる、という美味しいシチュエーションを堪能する。
『いつまでもあんなトコに掴まってたら、滑れるようにならねーだろー?』
『やだ、ちょっと!・・・手、離さないでよっ!』
『へえ、そんなにオレと手ぇつないでたいんだ』
『ば、馬鹿っ!・・・そんなんじゃないわよっ!・・・って、きゃあっ、だから、離さないでって言ってるでしょうっ!?』
『・・・オメーな、言ってること矛盾してるってわかってるか・・・?』
口では憎まれ口を叩きながらも、必死にしがみついてくる蘭の身体を支えながら・・・新一は、人が聞いたら呆れるほどの、何ともいえない幸福感を味わっていた。
蘭が頼っているのは、オレ。
蘭を支えているのは、オレ。
そんな「男の自尊心」がこの上なく満たされるこんな機会など、滅多にありはしないだろう。
優しくコーチしてやる、というのがどうにも照れてしまい、「オメーがこんなに鈍いとは思わなかったぜー?」などと、ついからかってしまうのだが、本音を言えば、新一は蘭に「苦手分野」があったことが、嬉しくてしょうがないのだ。
・・・だから、ついつい。
蘭には悪いと思いつつも・・・「蘭にはすぐには上手になってもらいたくはねーんだよな・・・」という、何とも我侭な願望が、新一の行動を支配してしまう。
人にものを教えるのは、苦手ではない。
わかりやすい指摘で、短時間のうちに相手にコツを掴ませて、マスターさせる。・・・これまで蘭に対して何を教えるときでも、そうしてきた。
だが、その結果、彼は自分の楽しみを自分でなくしてしまったのだ。
そして、新一は考える。
(・・・クラス行事は、来月の話だし・・・まだ、いいよな?)
蘭が、・・・滑れないままであっても。
何とも姑息な理由から、新一は蘭に対するコーチを「手抜き」した。
蘭の滑り方の悪いところを敢えて指摘せず、ただただ、「ほら、こうやんだよ!」と目の前で滑ってみせて・・・それを真似しようとする蘭が、やっぱり上手くいかずに転びそうになるたびに、その身体をしっかりと抱きとめる。
そのたびに蘭は顔を赤らめて、何とも悔しそうな顔をするのだが、そんなことはお構いなし。「・・・ったく、オレがいねーと、何にもできねーんだな、オメーはよぉ」と、口には出さずとも態度と表情にたっぷりとそんな感情を滲ませる。
そしてその挙句、丸一日練習しても滑れるようにならなくて(・・・コーチが手抜きしているのだから、当たり前である)、意気消沈している蘭に対し、
『・・・来週、もう一回いくぞ!』
『・・・本気で・・・?』
『んだよ、滑れるようになりたいんじゃねーの?』
と、意地の悪いお誘い。
まさかコーチの新一が、そんな姑息なことを考えているとは知らない蘭は、悔しそうに新一を睨みつけながらも、しぶしぶ、こくん、と頷いた。
そして、新一の邪なスケートコーチは、続行されることになったのであった。
そして、翌週の日曜日。
場所は同じく、トロピカルランドの屋外スケートリンクにて。
先週の宣言通り、新一は、出掛けから緊張しているのか気合が入っているのか・・・いつになく険しい表情の蘭を連れ、この場所へとやってきた。
もしかして、来るのを嫌がるかな?とも思っていたのだが、とりあえずはおとなしく付いてきた蘭に、ほっと胸を撫で下ろす。負けず嫌いな蘭のこと・・・このまま滑れないままでは、終わりたくないと思っているはずなので、来ないことはないだろう、とは思っていたのだが。
二人はスケート靴に履き替えて、リンクサイドまでやってきた。
先週、自分のちょっとした願望を優先し、蘭に対しての「指導」をあまり熱心に行わなかったことに関しては、わずかに罪悪感を感じないでもなかった。
だが「手抜き」はしたものの、間違ったことを教えているわけでもないのだから・・・多少は「男の楽しみ」を満喫したって、いいよな?
相変わらずそんなバカなことを考えながら、でも蘭に向かっては、「・・・いい加減に滑れるようにならねーと、そこらへんで滑ってるガキにまでバカにされるぜ?」などと、いつものように軽口を叩く。
それに対して蘭はというと、ぷうっと頬を膨らませて、「いつまでも滑れないままだと思ったら、大間違いなんだから!」と応戦してきた。
「へえー? じゃ、さっそく見せてもらおうか?」
「・・・いいわよ、見てなさいよね!」
蘭はそう啖呵を切って、新一を置いて先にリンクに出ようとする。
一週間前のへたくそ振りからして、今日も転びまくって、しがみつきまくってくるんだろうなー・・・などと、こっそり予想(・・・妄想ともいう)しつつ、手すりに掴まりながら恐る恐るといった様子でリンクに降りる蘭を見守っていたのだが・・・。
手すりにすがるようにして、蘭が2、3歩移動する。・・・相変わらず、危なっかしい足取りで。
わずかにバランスを崩しそうになる蘭の様子に、新一は慌ててリンクに飛び降り、その背後に滑り寄った。
・・・ちなみに新一は先週の練習で、何度も何度も・・・それこそ数え切れないほど転倒しかけた蘭を、ただの一度たりとも、本当に転倒させたりはしなかった。すべてその直前でキャッチし、腕を掴むなり抱きとめるなりして支えきっていたのだ。
なので今日も、蘭がバランスを崩しそうになるのを見逃さず、すかさず抱きとめようとする。
のだ、が。
「・・・え?」
我が目を疑う光景に、新一の思考回路は、しばし停止してしまっていた。
(・・・何で?)
倒れてくる蘭を抱きとめようと伸ばした新一の腕は、なぜか見事に空振りしてしまったのだ。
そして視界の中には、スムーズとはいかないまでもそれなりに安定した足取りで、前方へとゆっくり滑ってゆく蘭の姿。・・・手すりから手を離し、両腕を左右に広げてバランスをとりつつ、左右の足を交互に蹴って、氷の上を進んでゆく。
「・・・ら、蘭・・・?」
えーと、先週・・・結局最後の最後まで、一人では滑れなかったはず、だよな?
新一が両手を引いてやって、なんとか前進できてはいたけれど、ちょっと離せば即座にバランスを崩してしまい、足をもたつかせては尻餅をつきそうに・・・なってなかったか?
何で、突然今日になって、滑れるようになってるんだ・・・?
どんどん前に進んでいく蘭を追いかけることも忘れて、新一は呆然と、遠ざかってゆくその後姿を見送っていた。
そりゃ、まだまだ上級者どころか中級者ともいえないくらい、たどたどしい足取り。だが・・・もう新一の手など必要ないのだとばかり、たった一人で新一のそばを離れ、滑り去ってしまおうとする蘭の背中を・・・。
ふと、蘭が足を止め、くるりとこちらを振り返る。
まさか新一がスタート地点から一歩も動けずにいるとは思わなかったのか、自分の近くにその姿がないことに慌てたように、きょろきょろと周囲を見回して・・・そして離れたところで立ち尽くしている新一の姿を認めるなり、蘭はこれ以上はないというほど嬉しそうに笑いながら、新一に向かって手を振った。
「新一!ちゃんと見ててくれた!?」
さきほどまでの険しい表情はどこへやら。
非常に晴れやかな、そして誇らしげな・・・そしてやけに嬉しそうな、楽しそうな笑顔で。
その笑顔に一瞬呆けたあと、新一は慌てて「あ、ああ・・・」と呟くように返事を返し、蘭の立つ位置まで滑り寄った。
「・・・何で、滑れるようになってんだ・・・?」
どうにも納得がいかず、嬉しそうに笑っている蘭に尋ねてみる。と、
「練習したからに決まってるじゃない」
当たり前でしょ?といわんばかりの、その答え。
「・・・先週、滑れてなかったじゃねーか」
「だから、それから練習したの!」
「・・・いつ?」
「月曜日から土曜日までだけど?」
「・・・てことは、学校終わってから毎日かよ・・・空手部の練習さぼったのか?」
「そんなわけないでしょ。終わってからに決まってるじゃない」
「・・・おっちゃんの飯は?」
「作ってからに決まってるでしょ」
「・・・じゃ、夜?どこで?」
「杯戸町のスケートリンク。ほら、駅の近くの・・・」
「あ、ああ・・・あそこか」
確かに杯戸駅から歩いて5分ほどのところに、小さくて古いスケートリンクがあったっけ。
はるか昔には新一も行ったことはあったのだが、トロピカルランドにスケートリンクができてからというもの、すっかり客足が減ってしまったという噂を聞いたことがある。
つまり蘭は、この前の日曜日以降、毎日のようにそこに通って、一人でこっそり練習していた、と・・・?
(・・・何だってオメーは、そんなにクソ真面目なんだよっ!!)
なかなか滑れるようにならない蘭に、優越感たっぷりにコーチしてやる・・・という、新一のささやかな楽しみが、ガラガラと音を立てて崩れてゆく。
心の中で、決して口にはできないなんとも身勝手な罵声を吐き散らかしながら、新一はただただ、呆然と蘭を見つめ返すしかなかった。
「まだあんまり上手に滑れないんだけどね、でも、ほら、転ばなくなったでしょ? けっこう練習したんだよー。毎日2時間くらい。始めは転んでばっかりだったんだけど、一昨日くらいからやっと転ばなくなったのよ。・・・今日までに間に合わないんじゃないかと思ってドキドキしてたんだけど、間に合ってよかったー!」
新一の心の声など当然聞こえていない蘭は、自力でここまで滑れたのが余程嬉しいのか、瞳を輝かせて一生懸命に話している。
それに対して、もう何も言う気になれず・・・新一はただ、「あ、そ・・・」と答えてため息をつくのだった。
たまには、優越感・・・もたせてくれたって、いいだろ・・・?
どうしていつもいつも、そうやって簡単に、オレに並んじまうんだよ。
そりゃ、まだまだぎこちない滑り方だけど。
だがここまでコツを掴んでしまえば、あとはもうすぐにでも上達してしまうだろう。もともと勘のいい蘭のことだから、それこそ新一が何も教えなくとも、簡単にできるようになってしまうはずだ。
しかも。
今日までに滑れるようになりたかった・・・って、どういう意味だ?
オレには、もう教わりたくなかったってことなのか?
それとも、わざと「手抜き」してたのがバレてたとか・・・? いや、蘭の口ぶりじゃ、そんな風には感じられない。
・・・だとしたら。
やっぱり・・・もうオレからは、何も教えて欲しくなかった、ってことか・・・?
だからオレに内緒で一人でこっそり練習して、何としてでも今日までに、滑れるようになっていたかった・・・ということなのか・・・?
思考がどんどん面白くない方向へと転がっていってしまい、いつの間にやら新一は、眉間に皺を寄せて黙り込んでしまっていたらしい。
ふと気付くと、すぐ至近距離に蘭の顔が迫っていた。
「・・・おわっ!」
意識が内側に向いている最中の突然の接近に、情けないほど焦ってしまった新一は、自分の顔を不思議そうに覗き込んでくる蘭から慌てて離れようとした。
そしてその瞬間に、不覚にもバランスを失ってしまい・・・。
「・・・げっ!」
「ちょ・・・し、新一っ!?」
慌てて体勢を立て直そうとしたものの、一度崩れてしまったバランスはそう簡単に立て直すことはできない。
近くに何か掴まるものでもあれば別だが、まさか目の前にいるからといって蘭の身体にしがみつくわけにもいかず(・・・その逆は、大歓迎なのだが)、結果としてどすん、と大きな音を立てて、新一は後方に倒れこんでしまったのだった。
冷たくて固い氷にしたたかお尻を打ち付けて、「いってー!」と情けない声を上げる。
「新一、大丈夫!?」
「・・・ってー・・・くそっ、油断したぜ・・・」
我ながら情けないこの失態に、新一は氷の上に座り込んだまま小さく舌打ちした。
まったくもって・・・なんという、醜態。
好きな女の前でカッコいいところを見せたくて(もちろん、当初の理由はそうではないのだが・・・)、こうして2週続けてでかけてきたというのに。
カッコよく滑って見せて、さりげなくリードしてやって、転びそうになってる蘭を支えてやって・・・と、いろいろ考えていたというのに。
当の蘭は新一の知らないうちに、いつの間にやら滑れるようになっていたばかりか、あろうことかその蘭の目の前で、尻餅をついてしまうとは。
「もお! ぼーっとしてるからよ」
「・・・悪かったな・・・」
確かに、ぼーっとしていた。
が、そのぼーっとしてしまった元凶である人間からそれを敢えて指摘されたのが面白くなくて、新一はむすっと黙り込む。そして身体を起こして立ち上がろうとした。
そんな新一の目の前に、白い手が差し出される。
「・・・え」
驚いて見上げれば、蘭が新一に向かってその華奢な手をすっと差し出していた。
これはつまり、この手に掴まって立ち上がれということ・・・か?
(・・・情けねー・・・)
助け起こしてやりたい相手から、逆に助け起こされそうになるなんて。
こいつ・・・なんだってこう、オレの男のプライドを次々に打ち砕いてくれるんだ・・・?
だが、蘭にはそんな新一の「男の意地」とでもいう思いはまったく伝わってはいないらしく、差し出された手を掴むこともできずに、かといってそれを振り払って自力で立ち上がってしまうのもためらわれてそのままフリーズ状態になっている新一を、なおも不思議そうに見つめている。
「・・・ほら、新一。いつまでもそんなとこに座ってたら、冷たいでしょ?」
そう言って、にっこり笑ってくれたり。
・・・その笑顔に観念したように、新一はおずおずと蘭の手を取った。
「・・・サンキュ」
照れくさくて、視線を泳がせながら小さくそう言うと、蘭はまたまたにっこりと嬉しそうに笑って言うのだった。
「これで、おあいこね!」
・・・どうやら、先週、散々転びそうになって、その都度新一に助けられたことを指して言っているらしい。
(オレとしては、『おあいこ』になって欲しくはなかったんだけどなー)
そう思いながらも、蘭の手に掴まってゆっくりと立ち上がる。
成長期の遅い新一は、2年生になってもあまり背が伸びず、立ち上がっても蘭とほとんど身長が変わらない。・・・そのことも、新一にはちょっと面白くない。
だからこそ、せめてこんなときくらい、「オトコ」でいさせて欲しいというのに。
だが、楽しそうに笑っている蘭の笑顔に、新一は諦めたようにため息をついた。
「ね、滑ろ?」
「あ、ああ・・・」
なんとなく繋いでしまった手をそのままに、蘭はゆっくりと滑り始めた。
必然的に新一も滑り出すことになり、そのまま二人は、並んでリンク上を進み出す。
当初の予定とは違ってはいるが、それはそれで美味しい展開に、ようやく新一の口元にも笑みが刻まれた。
(・・・ま、いっか)
蘭と手を繋いで滑るというこんなスケートも、それはそれで楽しいし。
蘭を滑れるようにして、来月のクラス行事で蘭を狙う男どもから蘭を守る(?)という目的も達成できそうだし。
そんな新一に向かって蘭は、ほっとしたように笑いかける。
「よかった。さっきから不機嫌みたいだったから、楽しくないのかと思ってた」
「え、オレ?」
「そうよ。ぼーっとしたり、私の話聞いてなかったり、怒ったみたいな顔してたじゃない」
「や、それは・・・」
そのときに何を考えていたかなんて、まさか口にすることもできず、新一はもごもごと誤魔化すしかなかった。
が、一つだけ・・・どうしても確認したいことがある。それだけは、蘭に聞かずにはいられない。
ゆっくりとした速度でリンクを並んで回りながら、新一は視線を前方に向けたまま、隣を滑る蘭に小さな声でたずねていた。
「・・・なあ、蘭」
「何?」
「なんでさ、その・・・一人で練習しに行ってたんだよ」
「・・・え?」
「夜なら、オレだって時間あったんだし・・・いくらでも、教えてやったのに」
やはり蘭が自分を頼ってくれなかったことは少し面白くなくて、ぶつぶつと溢すように新一は言っていた。
それに対して蘭は、「え、だって・・・」と言うなり、わずかに顔を赤らめて口ごもってしまった。
「だって・・・何だよ」
「・・・だって。・・・もう新一に、手を引かれて滑りたくなかったんだもん・・・」
「は・・・?」
蘭の言葉に、わずかにショックを受ける。
それってやっぱり・・・オレには、教えてもらいたくない、ってことだよな・・・?
オレには頼りたくねえってこと・・・なんだよな・・・?
そのことに寂しさを覚えてしまい、新一はわずかに俯いた。
だが。
「わたしね・・・新一と、並んで滑りたかったんだ。こんな風に」
「へ?」
「手を引かれて滑るなんて、嫌だったの。並んで一緒に滑りたかったの。・・・だって手を引かれてるってことは、その手を離したら、私だけ置いていかれるってことじゃない。そんなの、嫌だもん」
でも、今だったら手が離れたって、ちゃんと追いかけていけるでしょ?
そう言って笑顔を見せる蘭に・・・新一はまたまた、言葉を無くす。
そして1週間前の子供っぽい虚勢心を、心から後悔していた。
そっか・・・そうだよ、な。
蘭に頼られるのが嬉しくて、蘭にカッコいいところを見せたくて、「蘭がなかなか滑れないほうがいい」なんてバカなことを考えてしまっていたけれど。
それは、蘭の気持ちを考えていない、自分勝手な我侭でしかなくて。
蘭は蘭で、必死に追いつこうと・・・オレに並ぼうと、してくれていたというのに・・・。
「・・・ごめん」
思わず呟くように出てしまったその謝罪の言葉に、蘭が「え?」と不思議そうな顔をする。
それに対しては「何でもねーよ!」と返しておいて、新一は繋がれた手をぐっと引っ張った。

「・・・じゃ、スピードアップするぞ!」
「えっ!? う、嘘っ! わたしまだ、そんなに早く滑れないよっ!」
「だから練習するんだろ? ほら、行くぞ!」
慌てる蘭の手を引いて、新一は右足で強く氷を蹴った。
突然上がったスピードに、蘭はたどたどしい足取りで、それでも必死についてくる。
そんな様子がおかしくて、でもなんだか可愛くて、新一は顔をほころばせながらそんな蘭を見つめていた。
こうやって並んで滑るのも、悪くない。
けどさ。
ほんの一歩だけでいいから・・・オレの方が前を滑ってたって、いいよな?
そんなちょっとくらいは、オレを「オトコ」でいさせてくれたっていいだろ?
そのかわり・・・オメーが転びそうになったら、絶対に助けてやるから、さ。
・・・そんなことを思いながら、新一は蘭の手をさらにきゅっと握り締めるのだった。
〜fin〜
cut by ふぶきさん