「僕も行くっ!!」
蘭のスカートを引っ張って、大声でそう主張する、小さな男の子。
「だーめ。あなたはお留守番」
めっ!・・・とちょっと怖い顔をしてみせるのだが、彼にはまるで効果なし。
「やぁだ!ボクも行くっ!! 行く行く行く行く行く〜〜〜っ!!」
「あのねえ・・・」
「ねえ、いいでしょ? ボクも行くぅ!」
スカートをぎゅううっと引っ張り続けながらの、まるで駄々っ子の彼のおねだりに、蘭は小さくため息をついた。
・・・そして諦めたように呟く。
「しょうがないわねえ・・・」
すると彼は、ぱあっと顔を輝かせ、「やったーーーっ!!」と大喜び。
そして、嬉しそうに蘭の周りを小躍りして走り回る彼の姿に、ふと昔のことを思い出して・・・蘭は「くすっ」と笑みを漏らしていた。
「・・・やっぱり、血は争えないわね・・・」
「え?」
「パパの若い頃に、そっくり」
「ボクが? ボク、パパに似てるの?」
「ええ。・・・パパもね、昔、ママのスカート引っ張ってね・・・」
くすくすと笑いながら、内緒話をするように彼に話しかけようとすると・・・。
「・・・何か言ったか?」
と、背後から、低ーーく押し殺した、妙に迫力のある声が聞こえてきた。
驚いて振り向けば、久しぶりの休みを満喫しようと、朝からくつろぎモードでリビングに転がっていたはずの新一が立っている。
「ううん、何でもなーい!」
慌てて笑って誤魔化して、両手を左右に振ってはみても、新一は恨めしそうに蘭を睨んでくる。
「・・・オレが、何だって?」
「ボク、パパの小さい頃にそっくりなんだって!」
答えに窮する蘭に代わって、彼は無邪気にそう答えた。その返答に、新一のこめかみにぴしっと青筋が立つ。
「・・・ほお。オレに、ね・・・」
「パパも子供のとき、ママのスカート引っ張ったの?」
「・・・・・・」
「あれ?でもパパが小さいときって、ママも小さかったんだよね?変なのー」
無邪気な彼の言葉を聞きながら、新一の視線が「・・・余計なこというんじゃねーぞ・・・」と、蘭に告げていた。
ええ、言わないわよ。
あなたがわたしのスカート引っ張って駄々をこねていたのが、7歳の頃じゃなくて・・・17歳の時だった、なんて、ね。
父親の威厳、台無しだもんね?
くすくすと、なおも思い出し笑いをする蘭に、「・・・いつまでも笑ってんじゃねえっ!」と不貞腐れたように言い置いて、新一はさっさとリビングに引き返していった。
その顔が、悔しさと恥ずかしさで赤くなっていたのを、もちろん蘭は見逃さなかった。
「・・・パパ、怒ってるの?」
「怒ってないわよ。子供のときの話をされて、照れてるだけ」
「ふうん」
心配そうに蘭の顔を見上げてくる彼にそう言うと、納得したのかしないのか・・・微妙な表情で首をかしげる。
そんな彼の手をとって、蘭はにっこりと笑った。
「じゃ、ママとお買い物いこっか!」
「うん!」
無邪気な息子の笑顔に、やはり当時の「彼」の顔を思い出し・・・もう一度蘭は、心の中で呟くのだった。
やっぱり、血は争えないわよね。
・・・甘え方まで、そっくりなんだから。
〜fin〜