「毛利さん、ボクと付き合ってください」
「・・・わたし、あの、つ・・・付き合ってる人が、いるんです・・・」
消え入りそうな小さな声で、語尾はほとんど聞き取れない。
「・・・もう1回」
「ええーっ!」
無情な新一の言葉に、蘭は不満の声をあげるが、まるで聞いてもらえない。
「もう5回も言ったんだから、いいじゃないっ!」
「ダメ。まだぎこちない」
「もう大丈夫だってば!・・・ちゃんと言えるわよ!」
「・・・信用できねーな。・・・いくぞ?・・・毛利さん、ボクと付き合ってください」
「・・・う・・・っわ、わたし、付き合ってる人が・・・いるんです・・・」
「・・・もう1回」
「ええーっ!」
昼下がりの工藤家で、恋人達のエンドレスな会話が続く。
今度男に言い寄られても、ちゃんときっぱり断れるように・・・蘭に何度も練習させている新一の本音は、単に蘭の口から「付き合ってる人がいるんです」という言葉を何度でも聞きたかったから、という・・・実に、我侭なものだったのだが、幸か不幸か、蘭はそのことに気づいていない。